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広島高等裁判所 昭和57年(行コ)11号 判決

控訴人(原告) 原史憲

被控訴人(被告) 防府市長 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人防府市長との間で、被控訴人防府市長が昭和五四年一一月三〇日川崎重工業株式会社(以下「川崎重工」という。)とした山口県防府市大字新田三六四番地に粗大ごみ破砕処理施設一式(以下「本件粗大ごみ破砕処理施設」または単に「本件ごみ処理施設」という。)を代金二億八、八〇〇万円で設置する旨の請負契約(以下「本件請負契約」という。)が無効であることを確認する。被控訴人防府市長は本件ごみ処理施設を使用してはならない。被控訴人鈴木覚(以下「鈴木」という。)、同冨田寶一(以下「冨田」という。)は防府市に対し、各自金七、四三四万円及びこれに対する昭和五六年五月二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」旨の判決を求め、予備的に「原判決を取り消す。本件を山口地方裁判所に差戻す。」旨の判決を求めた。被控訴人らは、各請求につき、いずれも主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実についての主張は、本案前の主張に関する部分(原判決五枚目裏一〇行目「二」から七枚目裏三行目終りまでの部分、及び、九枚目裏一〇行「四」から一一枚目表三行目終りまでの部分)を第一のとおり訂正し、本案の主張に関する部分を第二のとおり附加、訂正、削除するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

第一本案前の主張

一  被控訴人ら(各関係部分)の主張

1  控訴人は、防府市が昭和五四年一一月三〇日川崎重工との間にした防府市大字新田三六四番地に本件ごみ処理施設を代金二億八、八〇〇万円で設置する旨の本件請負契約が無効であることを確認する旨の訴を提起しているが、地方自治法二四二条の二の一項二号によると、住民訴訟の対象となるのは「行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認請求」であるところ、本件請負契約は私法上の契約にすぎず右の行政処分に該当しないから、控訴人の前記の訴は住民訴訟の対象とならず、不適法として却下すべきである。

2  控訴人は、本件請負契約が違法ないし無効であることを前提として、本件請負契約の締結に関与した被控訴人鈴木(当時防府市長)、同冨田(当時防府市市民生活部長)に対し防府市に代位してその損害金七、四三七万円及びその遅延損害金の損害賠償(以下「本件損害賠償」という。)の各自支払を求める訴を提起しているが、そのうち被控訴人冨田に関しては、前置すべき監査手続を経ておらず、この訴は不適法であり却下を免れない。

3  右1、2の主張が理由がないとしても、控訴人は右1、2の各訴のほか、被控訴人防府市長に対し本件ごみ処理施設の使用禁止の訴を提起しているが、右各訴は出訴期間経過後の訴提起で不適法である。すなわち、控訴人は昭和五五年九月二二日防府市監査委員に対し、防府市長に関する措置請求として監査請求をし、監査委員がその監査をした(以下、この監査を「第一回監査」という。)が、右監査請求には右各訴で主張する不服の要旨がすべて包含されており、監査委員もまたその不服のすべてにつき実質上審理の上判断をしており、右第一回監査が右各訴の前置手続としての監査にあたる。もつとも、控訴人は昭和五六年二月一六日防府市監査委員に対し重ねて本件ごみ処理施設に関する監査請求をし、監査委員が実体的監査をした(以下、この監査を「第二回監査」という。)が、右第二回監査はすでにした第一回監査と同一事項の監査を求める不適法なものとして却下すべきであつたから、右第二回監査をもつて右各訴の前置手続としての監査であるとすることはできない。したがつて、右各訴の出訴期間は、控訴人に第一回監査結果の通知があつた昭和五五年一一月二〇日から三〇日以内である(地方自治法二四二条の二の二項一号)ところ、控訴人が右各訴を提起したのは右期間経過後の昭和五六年四月二七日であり、右各訴は不適法として却下されるべきである。

二  控訴人の主張

1  本件請負契約無効確認訴訟は、地方自治法二四二条の二の一項二号の「行政処分たる当該行為の……無効確認の請求」にあたり、住民訴訟の対象となり適法である。すなわち、地方公共団体の防府市がその当事者となつており、防府市の議会の議決を経て契約されたものであること、本件請負の内容である本件ごみ処理施設の新設は防府市の衛生行政の目的実現のためになされ、その利益は防府市住民一般に及ぶ公共性があること、監査請求の対象として本件請負契約の無効確認も適法に含まれること、住民訴訟である本件ごみ処理施設の使用禁止及び損害賠償請求の前提問題として本件請負の無効確認を求める必要があることなどからみて、本件請負は右法条にいう「行政処分」にあたるものというべきである。

2  被控訴人冨田に対する本件損害賠償請求についても監査を経ており適法である。すなわち、被控訴人冨田は防府市市民生活部長として市長被控訴人鈴木と共謀して違法ないし無効な本件請負契約を締結したが、控訴人は第二回監査請求でその一人である被控訴人鈴木に対する損害賠償の請求をしその理由として随意契約の法定要件を具備しなかつた旨主張し、監査委員がその点につき実体的に審理判断しており、被控訴人冨田につき損害賠償の監査を請求したとしてもこれと全く同一の監査がされることが予測され、監査前置の目的である行政庁のこの点に関する第一次的判断権が被控訴人冨田に対して行使されたのと同様の状態にあるから、監査を経た場合とみなすべきである。

3(一)  控訴人が、防府市監査委員に被控訴人ら各主張の日時に本件ごみ処理施設に関する第一回、第二回監査請求をし、被控訴人ら主張の日時に第一回監査結果の通知を受けたが、第二回監査請求は第一回監査請求と異なる監査の対象につき監査を求めたものであり、監査委員においても異なる監査対象であるとして実体的に審理判断をしたものであつて、控訴人は昭和五六年四月一五日第二回監査結果の通知を受け、それより三〇日以内の同年同月二七日本件訴訟を提起したから、出訴期間を遵守しており、各訴は適法である。

(二)  右主張が理由がないとしても、監査委員が第二回監査請求を却下することなく実体内容について審理判断をした以上、前置主義としての監査の要件を充足するから、出訴期間は第二回監査結果通知の日から起算されるものというべきで、前記のとおり出訴期間を遵守しており、本訴は適法である。

第二本案についての主張

原判決二枚目裏一行目と二行目の間に「(本案についての主張)」を附加し、同九行目から一〇行目にかけて「次のとおり違法無効である。」を「全く地方自治法施行令一六七条の二の随意契約のできる要件を具備しない無効なものであり、その事情は次のとおりである。」と、同三枚目裏一行目「更に」から同三行目終りまでの部分を「川崎重工と随意契約した。」と各訂正し、同四行目「仮に右請負契約が随意契約であつたとして」を削除し、同四枚目表六行目「右の結果」を「無効な本件ごみ処理施設に関する随意契約を有効なものとして取扱い」と、同八行目「支出している。」を「支出したが、右支出行為は右随意契約の違法性を承継した違法なものである。」と、五枚目表七行目「外ない。」を「のが適切である。」と、各訂正する。

原判決八枚目表五行目終りに続いて「その事情は次のとおりである。」を加え、同行目と同六行目との間に次のとおり附加する。

「(一) 被控訴人鈴木が防府市長として被控訴人冨田を含む機種選定審査会に諮問して選定した指名入札業者中の二社につき契約見積額を提出させ見積り合わせをした後、低い額を出した川崎重工と随意契約をしたものであり、当初から競争入札の方法をとらなかった。

(二) 機種によつて粗大ごみの処理方式、能力に差があり、機械設備が各社の特許、実用新案権に基づく特殊なものであることから、まずその機種を選定しそれによつて必然的に供給する業者が特定されるが、その公正を期するため二社を選定し見積り合せをする方法によらなければ防府市の求める適正な機械設備を選定できない特殊事情にあつたので、その性質、目的が競争入札に適しないものにあたる。」

同六行目冒頭に「(三)」を加える。

証拠関係〈省略〉

理由

一  本案前の主張について

1  被控訴人らは本件請負契約無効確認の訴は、住民訴訟の対象とならず不適法として却下すべきであると主張する。

行政庁が優越的な地位に立つて一方的な意思表示をするのが行政行為であり、地方自治法二四二条の二の一項二号にいう「行政処分」はそのような行政行為をいうものである。しかしまた、行政庁は、公共の利益を実現する行政目的を有する場合でも、行政行為によらずに、相手方と対等の地位において相手方との意思の合致に基づき、私法上の法律行為をすることもできる(この場合その意思決定の前提として議会の議決を経ても、その私法行為性に変りがない。)。本件請負契約は、後記認定のように、契約前に川崎重工など二社に請負額を見積らせそのうち低額の川崎重工と契約をするにいたつたものであつて、防府市が川崎重工と対等の地位においてその意思の合致に基づき私法上の請負契約をしたものである。そこには何ら防府市の優越的地位における一方的な意思の発動がみられないから、本件請負契約は行政行為ではなく、地方自治法二四二条の二の一項二号の「行政処分」にあたらず、控訴人の本件請負契約無効確認の訴は不適法として却下を免れない。

もつとも、地方自治法二四二条一項には、財務会計上支出負担行為となる契約の締結につき監査対象として定め、したがつて、本件請負契約が代金支払を約した点で支出負担行為にあたり、その契約無効確認も監査の対象となるが、それは、監査委員が上級行政庁と同様の立場にある準司法機関で、契約締結の違法性(無効性をも含む)ばかりでなく、その自由裁量に属する契約締結の妥当性についても審査する権限と職責を有するからである。これに対し、この監査結果に不服ある者の提起する住民訴訟では、司法機関の性質上契約締結の妥当性についてその対象とすることができないことはもとより、その違法、無効についても、地方自治法二四二条の二の一項二号が、行政事件訴訟法における取消及び無効確認訴訟の要件と整合させるため、財務会計上の「行政処分」に限定したので、契約の締結については同号による無効確認訴訟によることができないものとされた。その監査結果に不服のある者は、同条同項四号の損害賠償の訴によることができ、その訴訟で前提問題として契約の締結が違法、無効であると主張することを妨げず、この前提問題である契約の無効確認を独立の訴として訴求する法律上の利益も存在しない。

この点の被控訴人ら主張は理由がある。

2  被控訴人鈴木は、控訴人の同被控訴人に対する本件損害賠償の訴は、出訴期間は第一回監査結果通知の昭和五四年一一月二〇日から三〇日以内であるところ本訴の提起はその期間経過後で不適法として却下すべきであるという。

(一)  各成立に争いのない甲第一、第二、第四号証、甲第三号証の一、二、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 控訴人が昭和五五年九月二二日防府市監査委員に対し、防府市長に関する措置請求書と題する書面で本件ごみ処理施設に関する監査請求をした(第一回監査請求)。その請求の要旨は「1 監査委員は昭和五四年一一月三〇日設置された市有粗大ゴミ破砕施設の購入に誤りがあつたことを正し、予想だにしなかつた維持管理費がかかりすぎる前選別にたずさわる者を解除(解雇ないし配置転換の趣旨か)し、経費のかからない優秀な性能を有する機械装置の導入をするよう是正の勧告をすること。2 性能劣悪なる施設を購入した責任を鈴木覚に負わし、損害金を算出し、市に賠償さすこと(3、4は省略)」とし、請求の理由として、「1 破砕機製造業者の内、手塚興産(株)があり、しかも既設の施設に比べ、前選別不要、廃棄物切断不要、無差別破砕可能で、しなも安価な施設をもつ優秀な業者があることを知りながら、性能劣悪にして高価な施設を購入し市に損害を与えている事実。これは公金の不当支出と公正な判断をしなければならない注意義務を怠つたためである。2 既設の破砕施設は、四分類選別が不十分で持込者があらかじめ粗大ゴミを一定の方法に切断する煩しさに加え、廃棄物を選り好みするいわゆる無差別投入ができない。その上、前選別、施設そのものに多人数を必要としムダな人件費を要し、右手塚式に比べ摩耗度が高く維持管理費が高く、結果処理コストが高くついている事実。3 市広報で既報のとおり、四分類選別により、鉄類を選別し売却して経費の足しにするという唄い文句からはずれ鉄類を廃品回収業者に渡した上、更に月額人件費三十数万円を支出する等して市に損害を与えている事実。4 市長の裁量権の範囲を逸脱して産業廃棄物を投入し公共用財産を不法に滅失させ損害を与えている事実。5 五三年九月六日機種選定委員十三名に対し、性能を買うべきだと主張し、公正を期して機種選定をするよう質問状を送達し、回答を求めたが全員無回答の事実。6 五三年五月二七日破砕機購入の見直しと中止を申し入れたが無視された事実。」と記載した。

(2) これに対し監査委員は、右(1)認定の請求の要旨1(本件ごみ処理施設購入の是正など)について、「当初の指名登録業者であつた九社の機種性能について比較検討がなされている。その結果横型回転式メーカー二社とギロチン式メーカー二社の二機種合計四業者の機種を選考対象とし、当該四業者から提出された見積仕様書を、日本環境衛生センター九州支局に内容の検討を依頼し、その仕様書検討報告書並びに各業者の実績、先進都市の調査並びに日本環境衛生センターの意見等をふまえ慎重に検討した結果、機種については本市の埋立処理目的に適応していると認められる横型回転式を採用することに決定している。次に、建設工事請負契約については、横型回転式メーーカーであり実績も多い川崎重工業株式会社を指名し、最終見積り合せを行つた結果、川崎重工業株式会社が、見積額において低額(二八八、〇〇〇、〇〇〇円)であつたので、工事請負仮契約を締結し、昭和五三年一二月一九日開催の防府市議会で承認されている。」との事実を認定し、これによると、本件請負契約をしたことに不当性がない旨判断した。また、被控訴人鈴木に対する請求の要旨2に関しては、特に明示の監査結果の記載がないが、監査理由の全趣旨からみて、本件請負が違法性がなく有効であるから、防府市が被控訴人鈴木に対し本件請負に関し損害賠償請求権が発生しない旨判断したものとみられる(なお、右監査裁決書にはその余の請求の要旨に対する判断も示されている。)。監査委員は昭和五五年一一月二〇日控訴人に対し、右監査結果を通知した。しかし、控訴人はその監査結果に対する不服の訴訟をその出訴期間である三〇日以内に提起しなかつた。

(3) そこで、控訴人は本件訴訟を提起する前提として昭和五六年二月一六日防府市監査委員に対し、第一回監査請求によりその監査結果の通知を受けた日まで時効中断したので再度監査請求する旨主張して、監査を求めた(第二回監査請求)。その請求の要旨として、「1 前市長(被控訴人鈴木)に対する損害賠償請求、2 市民生活部長(被控訴人冨田)、施設課長の転任又は解任。3 維持管理の軽減措置として、切断処理装置の導入」を挙げ、その理由として第一回監査と同様の事実関係を主張し、法律解釈として、本件請負が地方自治法施行令一六七条の随意契約の要件を具備しない違法がある旨附加した。これに対し、監査委員は、請求の要旨2、3は不適法として却下し、同1に関し、概ね第一回監査で認定した事実を引用し、法律解釈として、本件請負契約は地方自治法施行令一六七条の随意契約ができる場合にあたる旨を説示し、黙示的に同1の被控訴人鈴木に対する損害賠償請求が理由がないとして、その請求を排斥し、昭和五六年四月一六日控訴人に右監査結果を通知した。

以上のとおり認められる。

(二)(1)  右認定事実によると、まず、本件損害賠償の訴に前置された監査は第一回監査がそれにあたり、第二回監査ではないというべきである。控訴人の被控訴人鈴木に対する本件損害賠償請求の訴が本件請負契約の無効を理由としているので、監査請求できるのは原則としてその行為のあつた日すなわち本件請負契約が締結された日(防府市議会で承認議決のあつた昭和五三年一二月一九日に接着した日時ころと推認される。)から一年以内が原則であるが、このような随意契約の存在は一般住民が知りうる機会が殆んどないのが通常で、現実に本件ごみ処理施設が完成した昭和五四年一一月三〇日ころ控訴人が契約の存在を知りまたは知りえたものと推認することができ、控訴人がその時点にいたるまでその期間を遵守できなかつた正当な事由があるものというべく、したがつて、第一回監査請求は請求期間内とみなし適法であつたものといえる。しかし、第二回監査請求は、すでに第一回監査請求を経た後で本件請負契約成立時期を熟知していたものの、または、知りうべきであつた(前記認定の第一回監査結果にそれに関する記載があるから。)ということができ、また、監査請求権は時効期間ではなく第一回監査請求をしたからといつてその期間の中断もなければ期間不遵守の正当な理由ともなりえないから、期間経過後の請求としてこれを却下すべきものである。さらに、第二回監査請求は被控訴人鈴木に関してはその内容が第一回監査と全く同一内容でこの点からも却下を免れないものであつた。したがつて、本件損害賠償の訴に前置された監査は第一回監査であるというべきである。

(2)  控訴人は第二回監査ではその実体内容につき審理判断をしているから被控訴人鈴木に対する本件損害賠償の訴に前置される監査手続は第二回監査である旨主張する。しかし、第二回監査請求が不適法として却下すべきこと前記のとおりであるところ、防府市監査委員が誤つて一部の実体内容につき審理判断をしたもので、第二回監査裁決は違法であるから、その監査をもつて本件損害賠償の訴に前置すべき監査があつたとすることはできない。

(3)  したがつて、被控訴人鈴木に対する本件損害賠償の訴の出訴期間は、地方自治法二四二条の二の二項一号に従い、控訴人が第一回監査結果の通知を受けた昭和五五年一一月二〇日から三〇日以内であると解すべきであるが、控訴人が本訴を提起したのは昭和五六年四月二七日であること裁判所に顕著であるから、右訴は出訴期間経過後の訴提起にあたり不適法として却下を免れない。この点の被控訴人鈴木の主張は理由がある。

3  被控訴人冨田は、同被控訴人に対する本件損害賠償の訴は監査手続を経ていないから不適法として却下すべきである旨主張する。

前記2認定事実及び説示によると、控訴人の第二回監査請求は不適法で右訴に前置すべき監査とみることができないところ、第一回監査請求の対象の中に被控訴人冨田に対する損害賠償請求を包含していない。控訴人はこの点につき被控訴人鈴木が被控訴人冨田と共謀して違法ないし無効な本件請負契約をしたことを理由にその損害賠償を求めているが、被控訴人鈴木に対しては監査を経ており、重ねて被控訴人冨田に対してその監査を請求しても、同一の監査結果が予測され、行政庁の第一次的判断権が被控訴人冨田に対して行使されたのと同様の状態にあるから、監査を経ていることになる旨主張する。しかし、住民訴訟において請求者の代位行使する地方公共団体がその長及び職員に対して有する損害賠償請求権は、各人ごとにその成立要件を異にし、その責任原因につきその大筋において同一であるときでも、その地位、職務権限、関与の方法、程度を異にし結論に影響を及ぼすべき差異が存在するのが通常であるから、損害賠償を求める相手ごとにそれぞれ監査を前置すべきものと解するのが相当である。本件において、被控訴人鈴木につき監査を経たからといつて、被控訴人冨田につきその監査を経たものと解することはできない。したがつて、控訴人の被控訴人冨田に対する本件損害賠償の訴は、監査の前置がなく不適法であり却下を免れない。(なお、被控訴人冨田に対する監査請求は、被控訴人鈴木に対する前記2(一)の説示と同一理由で、少くとも本件請負契約成立を知りまたは知りえた昭和五四年一一月三〇日から一年以内にすべきところ、それをしていないから、将来においても適法に監査を前置することはできない。)この点の被控訴人冨田の主張は理由がある。

4  被控訴人防府市長は、本件ごみ処理施設使用禁止の訴は前置すべき監査が第一回監査でその結果通知の日から三〇日以内に出訴すべきところ右期間経過後の訴提起で不適法であるという。

控訴人の本件ごみ処理施設使用禁止の訴の内容がその請求趣旨の文言どおりその「使用」を禁止する訴であると解すると、その使用は行政作用としての営造物利用行為にすぎず、金銭の支出負担行為でもなければ支出行為でもなく、住民訴訟の対象となる財務会計上の行為にあたらないから、地方自治法二四二条の二の一項一号にいう「当該行為」に該当せず、右控訴人の訴はすでにこの点で不適法として却下を免れない。

しかし、また、前記2(一)(1)認定の第一回監査請求の要旨の1のうち「予想だにしなかつた維持管理費がかかりすぎる前選別にたずさわる者を解除し」の文言をも合わせて考慮すると、その訴の内容は本件ごみ処理施設の前選別に携わる者に対する給与その他運営費の支出を中止することを求める趣旨であると解されないわけではない。もし、その趣旨であれば、財務会計上の行為ということができ、住民訴訟の対象となるが、他方、その訴に前置された監査は第一回監査であり、出訴期間は前記2と同様に、控訴人がその監査結果の通知を受けた昭和五五年一一月二〇日から三〇日以内であるところ、控訴人が本訴を提起した昭和五六年四月二七日はその期間経過後であり、控訴人の右訴は不適法として却下を免れない。この点についての被控訴人防府市長の前記主張は理由があることとなる。

二  以上のとおりであるから、被控訴人らの本案前の主張は理由があるので、本案につき判断するまでもなく、控訴人の本件各訴はいずれも不適法として却下すべきところ、これと同趣旨の原判決は結局相当で本件控訴は理由がないので棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹村壽 高木積夫 田中壯太)

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